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大阪高等裁判所 昭和42年(ラ)41号 決定 1968年10月08日

抗告人

小林敏郎

相手方

島本得一

主文

原決定を取消す。

相手方の本件異議申立を却下する。

本件申立費用及び抗告費用は相手方の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨および理由は別紙記載のとおりである。

一件記録によれば、原決定の申立の主張の要旨1項ないし4項(原決定一枚目裏八行目から三枚目表八行目まで)記載の事実を認めることができる。

よつて按ずるに、執行吏保管占有移転禁止の仮処分における執行吏保管の性格については議論の存するところであるが、少くとも執行吏保管に付した場合を私人としての保管人を置いた場合と同一視することはできない。けだし、この種の仮処分において、執行吏が仮処分債務者の占有を解く関係を、有体動産に対する差押(民訴五六六条)に準じて理解するか、不動産明渡執行の前半にあたる債務者からの占有の取得の段階として理解するかは別として、いやしくも国家の執行機関である執行吏の占有として、執行行為の性質を有することは否定できないからである。そうだとすれば、本件において仮処分債務者たる燈台正次郎ら三名はもとより、建物所有者と称する仮処分債権者たる抗告人といえども、執行吏保管の存在をそのままにして、敷地所有者たる相手方の要求により建物を勝手に収去し得ないのは勿論、執行機関も仮処分執行を無視して収去執行をなすことは許されないと解すべきである。この場合、仮処分債権者たる抗告人が実体法上、建物収去権利者たる相手方に対し建物収去を拒み得ない関係にあるとしても、右の結論を左右するものではない。

もつとも、このように地上建物について執行吏保管の仮処分がなされると、いかなる方法によつても建物の収去ができないというのでは明かに不合理であるから、かかる場合建物収去の前提として、仮処分の執行を解消させる何らかの途がなければならないのであつて、当裁判所はその方法として次に掲げる第三者異議の訴によるのが相当であると解する。

思うに民訴法五四九条の執行の目的物に対する第三者異議の訴は強制執行の存在が所有権その他の物権ないしは執行債権者に対抗し得るその他の権利を行使する上に妨害となる場合に、その排除を求めることを目的とするものにあると解すべきであるから、右の訴は強制執行の存する場合にその強制執行が第三者の右のような権利の妨害となる場合に広く認められるべきであつて、この場合、第三者の権利の目的が執行の目的物と一致することは必ずしもその要件としないものと解するのが第三者異議の訴を認めた法意に適合するものといわなければならない。本件の場合、執行吏保管の仮処分執行は建物収去の任意履行ないし強制執行の障害となり、土地の所有権の行使の妨害となることは多言を要しない。従つて本件で第三者の主張する権利の目的(土地)と仮処分執行の目的物(建物)とは異なるけれども、土地の所有権も民訴法五四九条にいう強制執行の目的物の譲渡もしくは引渡を妨げる権利に該当するものというべきである。

右の次第で、家治執行吏が本件建物に対し執行吏保管現状維持の仮処分の執行がある以上、これが解放または取消されない限り、建物収去土地明渡の執行は困難であるとして、執行委任を拒否したことは誠に正当である。

そうだとすると、家治執行吏の右処分に対する相手方の異議は理由のないものであつて、右の異議を認容して大阪地方裁判所昭和四〇年(執モ)第二五六号同(執モ)第二五七号代替執行等事件の執行力ある決定正本に基づき本件建物に対し強制執行を実施すべきことを家治執行吏に命じた原決定は不当として取消を免れない。

よつて原決定を取消し、相手方の異議申立を却下すべく、手続費用は相手方に負担させることとして主文のとおり決定する。(小石寿夫 宮崎福二 舘忠彦)

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